条件の不均衡の解消

パッシブ投資によって市場へのアクセス機会が公平に

インデックスをベースとする投資、すなわち「パッシブ」投資は、インデックス・ミューチュアル・ファンド、ETF、オプションなど、インデックス連動型商品で運用する手法です。パッシブ投資には次のようなメリットがあると考えられます。

パッシブ投資とは

ジョン・ボーグルが1976年に初めてインデックス連動型ミューチュアル・ファンドを設定した際には大胆なアイデアとされ、インデックスをベースとするパッシブ投資は、投資家が金融市場にアクセスして市場と同等のパフォーマンスを享受する方法に革新をもたらしました。

インデックス・ベースの投資が多くの投資家に受け入れられているのは、他にはない魅力があるからです。ポートフォリオに分散効果と透明性がもたらされ、投資家は保有する商品や銘柄を把握することができます。インデックス連動型商品には様々な種類があるため、投資家は世界の複数の金融市場を対象に、幅広く投資することも、的を絞って投資することも可能です。投資目的、投資スタイル、リスク許容度が大きく異なる様々なインデックス連動型商品を組み合わせたポートフォリオの構築が可能です。

受け入れるリスクや実現される利益は、投資した市場のリスクやリターンと一致します(ただし、投資家がインデックスをベースとした商品の購入・保有のために支払う費用は、インデックスのリターンに反映されていません)。インデックス・ベースの投資によって、投資自体が容易になるだけでなく、アクティブ投資よりもコストを低く抑えることができます。

とはいえ、インデックス・ベースの投資(または「パッシブ投資」)とは正確にはどのようなものなのでしょうか? 名称から推測できるかもしれませんが、インデックスに直接投資するわけではありません。インデックスは投資商品ではないからです。インデックスは特定の市場の証券やその他の資産の指標であり、インデックス・ミューチュアル・ファンド、ETF、オプションなどの投資商品の基盤として使用されます。

インデックス商品のポートフォリオは、連動するインデックスによって決まります。例えば、ダウ平均に連動するETFは同指数を構成する30銘柄を保有し、ダウ平均と同等のパフォーマンスを追求します。これがインデックス・ベースの投資とアクティブ投資の根本的な違いです。アクティブ運用の場合、ファンド・マネージャーはベンチマークとなるインデックスのパフォーマンスを上回るように主体的に銘柄を選択します。

パッシブ投資は主に以下の2つの点でアクティブ運用より優れています。

コスト

アクティブ運用の場合、マネージャーに支払う手数料が高いほか、頻繁に売買を行うことで取引コストがかさむことから、一般的にコストの高い戦略となります。

運用成果

アクティブ運用のマネージャーの大半は長期的に見ると、市場をアウトパフォームできません。

Kパッシブ投資の重要なイベント

分散効果

分散されたポートフォリオには、経済情勢や市場環境の変化に対して互いに異なる反応を示す証券が数多く組み入れられています。

例えば、株式によっては、景気拡大局面で市場全体をアウトパフォームする傾向があるものの、景気減速局面ではアンダーパフォームする銘柄があります。一方、景気減速時の打撃や景気拡大時の上昇の度合いがそれほど大きくない銘柄もあります。分散化された株式ポートフォリオでは、それぞれのタイプの銘柄を組み入れています。

そのため、分散投資では、限られた数の株式やその他の証券を保有するよりも、一般的に市場リスクの影響を抑えられます。ポートフォリオが十分に分散化されていれば、値下がりした資産の損失分を利益の出ている資産が相殺する効果を発揮します。分散効果が高いほど、相場下落時のリスク軽減の可能性は高まります。

現代ポートフォリオ理論の基礎である分散投資の効果を説いたのは、ノーベル賞を受賞した経済学者、ハリー・マーコウィッツです。マーコウィッツは株式市場全体に投資をすれば最大の分散効果が得られるため、「完璧なポートフォリオ」を構築できると主張しました。しかし、マーコウィッツの革新的な論文から20年以上経ってバンガードが初のインデックス・ファンドを開始するまで、個人投資家は、そのように市場全体を網羅する分散効果の恩恵を実際に受けることはできませんでした。

今日、様々なインデックス連動型商品のポートフォリオを通して、国内だけでなく世界中の広範な市場に投資することが可能です。これは、マーコウィッツが述べたようなポートフォリオを、投資家がほぼ保有できるようになったことを意味します。特定の業界やセクターなど、狭義の市場カテゴリーを投資対象とする場合でも、分散化されたインデックスを用いることで個別銘柄に投資するよりもリスクを抑えることができます。

透明性

ETFやインデックス連動型ミューチュアル・ファンドは、対象となるインデックスの全ての構成銘柄またはサンプルとなる代表的な銘柄を保有することによって、当該インデックスが網羅する市場と同等のパフォーマンスになることを目指します。

ETFやファンドが掲げる目標から大きく逸脱するリスクは限定的です。しかし、アクティブ運用ファンドではその可能性があります。リターンの向上を図るために投資スタンスとは異なる株式を購入することがあるからです。このようにスタンスを変更すると(スタイル・ドリフトと呼ばれる)、投資家は投資目標を達成するための許容範囲を上回るリスクにさらされること、または想定していたほどリスクを取れないことがあります。

透明性とは、ETFやインデックス・ファンドの構成銘柄だけでなく、組入比率も把握できることを意味します。インデックス投資では通常、この情報は毎日公表されます。一方、アクティブ運用ファンドは年4回しか保有銘柄の報告を義務付けられていません。四半期報告から次回の四半期報告まで、どの銘柄をどんな割合で組み入れることも可能です。したがって、投資目標が非常に異なるファンドが、同じ銘柄、特に現在、高パフォーマンスを上げている銘柄を数多く保有し、その情報が全く公表されないことがないとは限りません。その結果、投資家は同じ銘柄を重複して保有することで分散効果を失い、投資リスクの上昇にさらされる可能性があります。

マーケット・リターン(市場全体のリターン)

インデックスは、対象となる資産の代表的なサンプルを通じて測定する市場のリターン及びリスク特性を反映するように設計されています。

したがって、インデックス連動型投資商品は特定の市場のパフォーマンスを捉えるのに便利な手段と言うことができます。加えて、広く認知されているように、証券市場、特に先進国の市場は極めて効率的です。

市場が効率的であれば、最終的には、個別銘柄または市場全体の動きに影響を与え得るような情報を利用する機会はほとんどなくなります。そうした情報は既に市場に織り込まれており、インデックスやそれを再現するインデックス連動型商品のパフォーマンスに反映されているからです。

市場を効率的にする要因

01
既存のマーケット情報は容易かつ低コストで入手できるため、証券価格に織り込まれています。
02
証券に関する新たな情報はランダムに生じるため、予測することは不可能です。
03
新たな情報が証券の価格に与える影響も同様に予測不可能です。

言うまでもなく、パッシブ運用を含めて、いかなる投資戦略もプラスのリターンを保証していません。しかし、十分に分散されたポートフォリオのリターンは、これまで長期的に上昇しています。例えば、米国株式はS&P500指数やダウ平均の長期パフォーマンスが示すように、上昇基調を維持しています。インデックスをベースとした投資は、投資家がこのマーケット・リターンを捉えられるように設計された手法です。

コスト効率性

投資商品を購入・保有するために支払う対価は、将来のリターンを低下させます。投資コストが高ければ高いほど、パフォーマンスは引き下げられることになります。

投資コストの主要な尺度には、経費率と取引コストの2つがあります。経費率は、ファンドの運用管理にかかる費用としてリターンから定期的に控除される額が、当該勘定の資産価値に占める割合を百分率(%)で示しています。取引コストは、ファンドがそのポートフォリオのために証券を売買する際に支払う手数料です。経費率は公開情報です。したがって、ファンドの目論見書、各種オンラインの情報サイト、金融関係メディアなどから入手できます。

アクティブファンドとパッシブファンドのコストの違いについてご紹介します。

インデックス連動型ファンドやETFといったインデックスをベースとした商品は、パッシブ運用を投資手法としているため、アクティブ・ファンドよりも経費率は低くなる傾向があります。例えば、2019年のアクティブ運用株式ファンドの平均経費率が0.74%だったのに対して、株式インデックス・ファンドの平均経費率は僅か0.07%でした(出所: ICI、資産加重平均に基づく)。ただし、経費率は投資目的によって異なり、小型株ファンドや海外ファンド、特定の目的に的を絞ったファンドでは高くなる傾向があります。それでも、大半のケースで、特定の目的に絞ったパッシブ・ファンドに比べて、同様の目的を持つアクティブ・ファンドの方が経費率は高くなっています。

このようにコストに差異が生じる一因として、パッシブ・マネージャーの運用報酬がアクティブ・マネージャーより低い傾向にあることが挙げられるかもしれません。また、平均的な株式インデックス・ファンドの運用残高(84億ドル)は平均的なアクティブ運用ファンド(19億ドル)を上回っており、規模の経済もコスト抑制要因になっています(出所: ICI、2019年末現在のデータ)。

取引手数料も投資コストに影響を及ぼす要因ですが、ファンドの経費率には含まれておらず、別途報告されることもありません。ファンドが証券の売買に支払った額を推計するには、売買回転率を知る必要があります。売買回転率とは、ファンドのポートフォリオが1年間に入れ替わった割合を示します。回転率が高ければ取引コストは上昇します。アクティブ運用の株式ミューチュアル・ファンドの2019年の売買回転率は平均28%でした(出所: ICI)。1年間にポートフォリオの半分以上を入れ替えるファンドは短期的に大幅な利益を上げる可能性が高く、それに伴い税金も発生します。

インデックス連動型ファンドやETFがポートフォリオの銘柄を入れ替えるのは通常、対象となるインデックスの構成銘柄が変更された場合に限られますが、年に数回かそれ以下の場合もあります。実際、インデックスの多くは特に回転率を抑えるように設計されています。

ユージン・ファーマは、 ノーベル経済学賞を受賞し、インデックス投資の父と呼ばれることも多いですが、これらの要因が組み合わされることによって、アクティブ・マネージャーが効率的なマーケットやそれを再現するインデックスをアウトパフォームすることが、不可能ではないものの難しくなっている、と指摘しています。ファーマによると、証券選択のメリットを生かすためには、マネージャーはある証券に関してどのような新情報が出てきて、その結果、当該証券の価格にどのような影響が及ぶのかを正確に予測し続ける必要があります。アクティブ運用ファンドと対応するインデックスの運用成果を比較するS&PのSPIVA(Indices Versus Active Funds)の長年の結果を見ると、アクティブ・マネージャーが市場平均を上回るパフォーマンスを達成する難しさが確認できます。どの年においても、対応するベンチマーク指数をアウトパフォームしたアクティブ・マネージャーは極めて少なく、継続的にアウトパフォームしているケースは事実上ゼロといえます。

インデックス連動型商品

インデックス連動型商品は今や幅広い人気を集めていますが、投資の世界に登場したのは最近のことです。

バートン・マルキールは、1973年に第1版が出版された画期的な投資の指南書「ウォール街のランダム・ウォーカー」の中で、販売手数料が無料で、信託報酬を低く抑えたミューチュアル・ファンドを設定するべきとの考えを示しました。こうしたタイプのファンドは、市場を代表するインデックスの構成銘柄を購入してこれをアウトパフォームしようとしないため、投資家はマーケット・リターン、すなわちベータにアクセスできます。

それから僅か3年後の1976年、ボーグルが、比較的低コストで幅広い分散効果が得られるとして、インデックス・ファンドを設定しました。1993年にはETFが登場し、これによって、取引の柔軟性が拡大し、税効果が高まり、そして投資機会が拡大しました。つまり、インデックスをベースとした商品を利用して様々な投資戦略を実現するための手段が広がったのです

ジョン・ボーグル

インデックス商品の人気が高まった証拠を具体的に挙げると、2019年時点において、米国の投資家はインデックス連動型ミューチュアル・ファンドに約4兆3,000億ドルを投資しています。また、ETFへの投資額は4兆4,000億ドル以上になっています(出所: ICI、 2020年)。

1982年のインデックス連動型先物、1983年のインデックス連動型オプションの登場もインデックス商品のユニバースを拡大しました。これらの商品はいくつか重要な相違点もありますが、以下の目的に利用されます。

株式及び債券ポートフォリオの相場下落リスクに対するヘッジ

インカムの創出

対象となるインデックスの全ての構成銘柄を購入するよりも、低コストかつ容易に広範な市場に対するエクスポージャーを取得

ETFやインデックス連動型ミューチュアル・ファンドと異なり、インデックスに連動した先物やオプションへの投資は、多くの場合、長期保有を目的としていません。これらの投資手法を最大限に活用するには、投資家の目標と投資期間を理解し、投資目標を達成する可能性のある多くの戦略を分析した上で、適切なタイミングで投資を行う必要があります。

インデックス連動型商品の応用

コア・サテライト戦略

市場セグメント全体に連動するETFやインデックス・ファンドを土台のように組み合わせて、コアとなるポートフォリオを構築する投資家もいるかもしれません。インデックス・ベースの商品から取捨選択して特定の配分に組み合わせます。

選択した商品は、ライフ・イベントや目標の変化に応じてリスク・リターンのバランスを調整するために変更することもあります。インデックス・ベースの投資商品を利用して、特定のセクター、国、地域、戦略の短期的なエクスポージャーを追加します。 こうした手法は通常、コア・サテライト戦略と呼ばれています。

インデックス・インサイド・アクティブ

ファイナンシャル・アドバイザーはインデックス・ベースの投資手法を用いて、インデックス・ファンドやETFを組み入れた分散型ポートフォリオを構築することもあります。こうした投資は機関投資家向けで、個人投資家が直接購入することはできませんが、この「インデックス・インサイド・アクティブ」の手法は、アウトパフォームだけを目指すのではなく、マーケット・リターンを提供するために使用されます。

  1. ウィリアムF. シャープ、「アクティブ運用の算術論」、ファイナンシャル・アナリスト・ジャーナル、1991
  2. SPIVA 米国スコアカード、2013年、ブレット# 2 (直近のSPIVAスコアカードで再確認されており、頻繁に引用)。
  3. マーコウィッツ: ハリー・マーコウィッツ、「ポートフォリオ選択論」、ジャーナル・オブ・ファイナンス、1952年
  4. バンガード・ファンド: 1976年に設定されたファンド。バンガード・ファンドが設定されるまで、個人投資家は幅広く分散化されたポートフォリオに投資する手段がなかったと、バートン・マルキールは1973年初版の著書「ウォール街のランダム・ウォーカー」(重版を重ねて現在は第11版)で指摘。
  5. 2014年1月にデービッド・M・ブリッツァー、クレイグ・ラザーラなどインデックス委員会のメンバーへのインタビュー。
  6. ユージン・ファーマ: ユージン・ファーマ、「株価の動向」(後日「株価 のランダムウォーク」として再発行)、ファイナンシャル・アナリスト・ジャーナル、1965年、「効率的資本市場:理論と実証」、ジャーナル・オブ・ファイナンス、1970年。

第4章が終了しました。

この章で学んだことを確認するために、簡単なテストを行います。

01 インデックス・ベースの投資に関する記述で間違ったものは次のうちのどれですか?
02 幅広く分散化されたポートフォリオは:
03 パッシブ投資とは何ですか?
04 効率的な市場の特徴として正しくないものは次のうちのどれですか?
05 パッシブ投資に関する正しい記述は次のうちのどれですか?
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