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米上院によるインフラ投資法案の可決と、暗号通貨への影響

ベンチマークが重要な理由

不動産投資:定量的なルール・ベースの指数を使用するグローバル分散投資

指数効果の低下

デジタル資産インフラ – カストディ

米上院によるインフラ投資法案の可決と、暗号通貨への影響

米上院は 2021 年 8 月 10 日、超党派によるインフラ投資法案を賛成多数で可決しました。この法案はバイデン大統領の目玉政策の一つであり、総額 1 兆ドルを上回る規模となっています。これによるデジタル資産市場への影響は、金額的には小さいものの、暗号通貨の税務上の取り扱いで大きな影響が出る可能性があります。この法案が施行された場合、デジタル資産市場の参加者に対する税率の引き上げや新税の創設はありませんが、新たな申告義務が発生するため、デジタル資産投資家から徴収される税金は 280 億ドル増加すると推定されています。

一般に、米内国歳入法第 6045 条の規定によると、「ブローカー」の定義に該当する者は、顧客の名称、社会保障番号、及びその他の関連情報を記載したフォーム 1099 を米内国歳入庁(IRS)に提出し、取引ごとの総収益を申告する義務があります。今回のインフラ投資法案の仮想通貨条項では、この「ブローカー」の定義が拡大されており、「デジタル資産の移転を実現するサービスを提供する者」の定義に「分散型取引所(DEX)やピアツーピア(P2P)マーケットプレイス」も含まれることになります。

こうした定義の拡大により、分散型金融(DeFi)の取引所をはじめとするデジタル資産市場の参加者に大きな影響が及び、業界全体の負担が増す可能性があります。

分散型金融(DeFi)の多くの参加者は、デジタル資産の送信者や受信者を特定できないため、米内国歳入法第6045 条の申告義務を果たすことができない可能性があります。可決された法案の文言によると、幅広い市場参加者がブローカーの定義に含まれることになり、マイナー(採掘者)、デジタル資産を預かるサービス、ノード運営者、バリデーター(承認者)、スマート・コントラクト、オープンソース・デベロッパー、ハードウェア・ウォレット/ソフトウェア・ウォレットの開発者、DAO トークンの保有者などがブローカーとして扱われる可能性があります。また、以下のような場合にも個人投資家に影響が及ぶことになります:

  •  他の個人との間で暗号通貨を売買する場合
  • 暗号資産取引所(またはそれに相当する取引所)を通じて暗号資産を取引することは、単に 2 つの転送が同時に起こることであり、多くの場合ではブローカーまたはディーラーがテクノロジーを使用して取引を仲介する。また、分散型取引所(DEX)では、金融機関や事業体が一切介在せず、テクノロジーのみによって個人間の取引が成立する場合がある。

したがって、影響を受ける個人は金融機関レベルで申告を行うことが義務付けられます。従来の金融取引では、誰がブローカー(例えば、ファンド・マネージャーなどの金融機関)で、誰が顧客(例えば、ファンド・マネージャーのファンドに投資する投資家)なのかが明確であったため、金融機関は容易に取引を申告することができました。多くの上院議員がこの問題を認識しており、ワイデン上院議員、トゥーミー上院議員、及びルミス上院議員などは法案の文言の修正案を提出しました。具体的には、マイナー(採掘者)やハードウェア・ウォレット/ソフトウェア・ウォレットの提供者などをブローカーの定義から除外し、実際に申告することができる当事者(例えば、暗号資産取引所)のみに申告義務を課すことが提案されました。しかし、申告義務の対象者の範囲を狭めた場合、予想税収が約 51 億 7,000 億ドル減少する可能性があることが判明しました。ポートマン上院議員はツイッターの投稿で、「イノベーションを阻害せず、ソフトウェア開発者、マイナー(採掘者)、またはその他の非ブローカーに対して申告義務を課さないように、暗号資産取引に関する米内国歳入庁(IRS)への申告ルールを修正する」ことについて合意に至ったと述べましたが、法案の文言は原案のままとなりました。
ブローカーの定義を狭めることなしに法案が成立した場合、米内国歳入庁(IRS)への申告義務の適用範囲が非常に幅広くなります。一方、米国外の企業が所有・管理するブローカーなどは米国の申告義務の適用を受けないため、結果として人材やテクノロジーが米国外に流出してしまう恐れがあります。これにより、デジタル資産業界が米国にもたらす経済的恩恵が少なくなる可能性があります。ほとんどの暗号通貨は国境を超えて取引されるため、人材やテクノロジーが米国外に流出したとしても、暗号通貨指数全体には影響しない可能性もありますが、米国の暗号資産プロジェクトと米国以外の暗号資産プロジェクトの成長に影響が出る可能性があります。米財務省と米内国歳入庁(IRS)は、デジタル資産の税務上の取り扱いに関して正式なガイダンスをまだ示していないため、新たな申告ルールが施行されるまでに、少なくとも 18~24 ヵ月の準備期間が設けられると予想されます。現時点で、インフラ投資法案は 2023 年に施行される見通しとなっています。
S&P 暗号通貨指数は、ビットコインやイーサリアムを含む複数の暗号通貨のパフォーマンスに連動しており、日々進化するユニークな暗号資産市場に透明性をもたらすように設計されています。S&P DJI のデジタル資産ソリューションについて詳しい情報をお求めの方は、こちらを参照ください。

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ベンチマークが重要な理由

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Craig Lazzara

Managing Director, Index Investment Strategy

S&P Dow Jones Indices

私は先日、パッシブ運用をテーマとするオンラインセミナーに参加する機会がありました。視聴者の中のポートフォリオ・マネージャーは次のような興味深い質問をしました。「X%のリターンを獲得することが目標であれば、指数のパフォーマンスは関係ないのではないですか?言い換えれば、特定の絶対リターンを獲得したいのであれば、指数に対する相対リターンを気にする必要はないのではないですか?」

これは良い質問であり、多くの良い質問に対する答えと同様に、この質問に対する答えも場合によって異なります。つまり、付随する質問によって答えが違ってきます。X%のリターンを獲得することが投資家の目標であれば、どのような手段でその目標を追求しようとするかがポイントとなります。

投資の世界には多くの資産クラスがあります。金の延べ棒やビットコイン、または優れた芸術家の絵画などを購入する投資家もいます。しかし、ほとんどの場合、投資家や運用受託会社は証券に投資することにより絶対リターンを追求します。証券市場では、少なくとも2つの理由で指数のリターンが重要となります。

1つ目として、適切に構築されたベンチマークでは、投資家の機会集合を定義します。S&P 500®のような時価総額加重指数は、株式市場の価値に連動するように設計されています。株式市場全体の価値が変化すれば、指数のリターンにも直接的な影響が及びます

年間8%のリターンを獲得することが投資家の目標であると仮定し、投資している市場が20%下落した場合、投資家がその目標を達成することはほぼ不可能です。一方、市場指数が20%上昇した場合、8%のリターンで投資家が満足することはほぼあり得ません。絶対リターンは願望であり、相対リターンは実用的なものであると言えます。

2つ目として、市場指数に対するポートフォリオの相対リターンは、運用マネージャーのスキルを表します。お客様は、パッシブ運用によって市場平均並みのパフォーマンスを確保するか、またはアクティブ運用によって市場平均をアウトパフォームすることを目指すかを選択することができます。アクティブ運用マネージャーにとっての成功の尺度が、ベンチマークをアウトパフォームすることであれば、過去の実績を見る限り、ほとんどの期間において、大抵のアクティブ運用マネージャーはベンチマークをアウトパフォームできていません。実際に、長期の投資期間では、指数運用の優位性が非常に大きくなっています

したがって、パッシブ運用によって市場平均並みのパフォーマンスを目指す投資家は、市場平均をアウトパフォームすることを目指す投資家よりも良い成果を得る場合が多いと言えます。相対リターンを諦め、ベンチマークに対する超過収益を目指さないことが、絶対パフォーマンスを向上させる重要なカギとなるかもしれません。

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不動産投資:定量的なルール・ベースの指数を使用するグローバル分散投資

質問…

米国株式、国際株式、長期国債、米国財務省短期証券、及び不動産投資信託(REIT)の5つの主要資産クラス中で、過去20年間において複利リターンが最も高かったのはどれでしょうか?株式でしょうか?利回りがゼロ近くまで低下したため、答えは債券でしょうか?

いいえ。REITが最も高いリターンを達成しました。過去20年間にわたる各資産クラスのリターンを比較すると、REITが最も高いリターンとなり、年間複利リターンは10.4%となりました。伝統的な投資ポートフォリオにREITを加えることにより、過去のリターンを上回る収益を獲得できる可能性があります。

さらに、株式や債券で構成されるポートフォリオに不動産(例えば、農地、アパートの賃貸、住宅建築業者、または商業用不動産など)を組み入れることで、ポートフォリオの分散を図ることができます。「REIT」について考える場合、多くの投資家は「インカム収入」を思い浮かべます。そして、どのREITの利回りが最も高いかに注目し、そこで分析をやめてしまいます。しかし、これは非常に視野の狭い手法であると言えます。

以下では、REITを組み入れたポートフォリオを構築する上で最適と考えられる方法について考察します。

グローバルな分散投資

分散投資を行う上で投資家が犯しやすい失敗の1つは、自国の資産に投資先を集中させてしまうことです。例えば、世界の株式市場を時価総額で見た場合、米国の株式市場は世界全体の合計時価総額の半分強に過ぎません。しかし、米国のほとんどの投資家は約80%以上の資金を米国株式に配分しています。

もちろん、このホームカントリー・バイアスは米国の投資家に限ったことではありません。世界中の投資家がホームカントリー・バイアスに陥っています。特に小さな国の市場は世界の合計時価総額に占める割合も小さいため、ホームカントリー・バイアスが大きな問題となり得ます。REITの場合でも、米国のREITだけを投資先として検討することは適切ではありません。しかし、バランスの取れた最適なREITポートフォリオを構築する上で、グローバルな分散投資を検討することは最初のステップに過ぎません。理論上は、その他にも重要なステップがあります。

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指数効果の低下

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Hamish Preston

Head of U.S. Equities

S&P Dow Jones Indices

  • この記事に含まれる指数 S&P 500

パッシブ投資が拡大している中で、株式のリターンは「指数効果」による影響を受ける可能性があるとの指摘が増えています。指数効果とは、指数構成銘柄の変更に伴ってインデックス・ファンドが銘柄を入れ替えた場合、その銘柄のリターンに影響が及ぶことを言います。この指摘が正しければ、指数に追加される銘柄には買い圧力が強まるため、当初はアウトパフォームします。一方、指数から除外される銘柄には売り圧力がかかるため、当初はアンダーパフォームします。

当社の最近のレポート(指数効果に何が起きたのか?:過去30年間にわたるS&P 500®の構成銘柄の追加と除外)では、S&P 500の構成銘柄の追加と除外について分析を行っています。S&P 500は世界で最も幅広く参照されている指数であり、2020年末時点で米国の大型株のベンチマークとして5兆4,000億ドル(1996年末時点では5,770億ドル)を超える資産がS&P 500に連動しています。したがって、指数効果が存在するのであれば、S&P 500の構成銘柄が追加または除外された場合にもその影響があると考えられます。

本レポートの結果は、既存の文献において共有されている一般的なコンセンサスを裏付けるものとなっています。それは、S&P 500の指数効果が構造的に低下しているように思われるということです。実際に、図表2に示されているように、S&P 500への追加銘柄と除外銘柄の超過リターン(追加・除外の発表日と有効日の間におけるS&P 500に対する超過リターン)の大きさは時間の経過とともに明らかに減衰しています。指数効果の低下は、追加された銘柄のソース、除外された銘柄の移動先、または企業のセクター分類とは無関係です。

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デジタル資産インフラ – カストディ

ビットコインについてお客様から問い合わせを受けたことはありますか?それは、ビットコインやその他の暗号通貨の購入方法に関する質問でしたか?あるいは、MetaMask ウォレット(暗号資産専用の Web ウォレット)の登録方法に関する質問でしたか?または、中央集権型取引所(例えば、コインベース)や分散型取引所(例えば、ユニスワップ)の選択に関する質問でしたか?暗号通貨を取引するには、専門用語を学ぶ必要があます。例えば、公開鍵(パブリックキー)と秘密鍵(プライベートキー)、ホットストレージとコールドストレージ、レッジャーとトレザー、及びシードフレーズなどは、暗号通貨取引において重要な専門用語です。さらに、暗号通貨を購入、取引、及び所有するための多くの方法が開発されており、イノベーションが加速しています。

暗号通貨市場は急速に成長しているため、規制環境の変化、未完成の技術、未知のリスク(ハッキングの恐れや、秘密鍵の紛失など)、及び運用や ITのセキュリティの必要性といった様々な課題があり、これらに対応するためにインフラ整備が進められています。暗号通貨市場は多様で複雑な市場であるため、市場の運営が困難となることもあります。

暗号通貨取引における課題の 1 つとして、暗号通貨のカストディ(管理・保管)の問題が挙げられます。金融機関にとって、目的に合ったカストディ・ソリューションを選ぶことは非常に重要であり、これは暗号通貨の分野における成功や競争力を左右する重要な要素となります。

一部の金融機関は、暗号通貨のカストディの問題(広い意味ではインフラの問題)をすべて回避することを選択しています。ビットコインやその他の暗号通貨を直接保有する場合、規制に抵触する可能性があるため、これらの金融機関は暗号通貨を直接保有せず、その代わりに上場投資信託(ETF)や先物を利用して暗号通貨へのエクスポージャーを得ることに目を向けています。

一方、暗号通貨を直接保有したい金融機関にとって、いくつかの選択肢があります。

独自のカストディ・ソリューションを構築する企業もあり、例えばスタンダード・チャータード銀行は、暗号資産カストディ・サービスを提供する「ゾディア」を立ち上げると発表しました。しかし、大手のカストディアン、銀行、及び資産オーナーなどの間では、デジタル資産専門のカストディ会社(ブロックチェーン・インフラに特化した会社)と統合するケースが増えています。これにより、従来型の企業であっても、複雑な業務を管理し、規制のグレーゾーンに対応し、迅速に市場にアクセスすることが可能になると考えられます。例えば、BNY メロンは、暗号資産のカストディ・サービスなどを手掛けるファイアブロックスを使用することを計画しています 1。その他の有名な暗号資産カストディ会社としては、アンカレッジ、ビットゴー(ギャラクシーが同社を買収することで合意)、及びキングダム・トラストなどが挙げられます。

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