エグゼクティブ・サマリー
短期的な視点で取引を行うトレーダーから長期的な視点で取引を行うパッシブ投資家に至るまで、健全な取引エコシステムでは、価格の透明性、市場の効率性、及び市場の信頼性を促進することによって、市場参加者に恩恵をもたらします。本稿では、2019年からの分析をアップデートすることで、S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス(S&P DJI)が開発した指数に連動するグローバル及びクロスアセットの様々な上場商品において観察される取引量と保有期間に関する調査を実施しました。その結果は、アクティブ投資戦略及びパッシブ投資戦略の基礎として指数の利用に対して視点を提供します。
- S&P DJIの指数に連動する様々な商品に関して報告された取引量を見ると、指数連動商品の利用が非常に活発であることが分かります。
- グローバル化した取引ネットワークは、S&P 500®及び関連指数と関連しており、これらの指数は潜在的な流動性ネットワークに影響を及ぼしています。
- タイムゾーン全体にわたるS&P 500連動商品の取引のインパクトと関連性を浮き彫りにし、オーストラリアのS&P/ASX 200エコシステムの拡大にもスポットライトを当てます。
取引量の価値
50年前にはほとんど存在しなかったインデックス・ファンドは現在、世界の金融市場で重要な役割を果たしており、「パッシブ」または指数に連動するファンドやポートフォリオの合計運用資産残高(AUM)の増加は、現代の金融史におい最も重要な進展の1つと言えます1。2023年末現在、約13兆ドルの資産がS&P DJIが提供する指数に連動する商品またはポートフォリオに組み入れられています2。しかし、指数に連動する(または指数をベンチマークとする)資産額の推計はメディアでも取り上げられていますが3、パッシブ運用商品の流通市場における取引量に関する包括的な推計は漠然としています。
これは残念なことですが、なぜなら、パッシブ投資商品の利用者の一部には、実際のところパッシブ投資商品をアクティブ投資に利用する利用者がいるからです。取引量のデータは、高頻度取引市場への参加者の存在を示唆するだけでなく、市場がアービトラージャー(裁定取引者)によってどの程度「監視されているか」を示す指標を提供する可能性があります。長期的なパッシブ投資家は、よりアクティブなトレーダーの存在から恩恵を受ける可能性があります。例えば、10年前にS&P500に連動する上場投資信託(ETF)を購入した仮想の投資家が、米国株式市場全体を代表するようなリターンを得ると同時に、メディアで広く報道される指数のパフォーマンスに近いリターンを得ることを予想していたと考えてみてください。このような信頼は以下の2つの要因により左右されます:
- 投資家はポジションを構築する、または売却する時に、アービトラージャーの存在に依存します。アービトラージャーはETFとの価格のずれを利用するために、ETFとファンドの保有資産を同時に購入または売却する(それによりずれを減少させる)ことを意図して、両社の関係を常に監視しています。ETFのポートフォリオが指数の構成とほぼ一致し、その指数が関連する流動性の高い金融商品と関連付けられている場合、この裁定取引は実行しやすくなります。したがって、例えば、S&P500に連動する流動性の高い先物により、S&P500に連動するETFがフェア・バリューに近い水準で取引されることが可能になります。
- ポジションの構築から売却までの間、投資家は、S&P500とその指数に基づく人気商品が、マスコミや投資コミュニティから多くの監視の目を向けられているという事実に変わりがないことを望んでいます。指数への追加、指数からの除外、及びメソドロジーの変更など原指数のあらゆる変更は、同じ指数に連動する人気のあるETFのポートフォリオ構成と同様に、世界中の市場参加者の精査の対象となります。このような精査は、原指数と、その設定された目的との間の継続的な連動や、ETFとそれに連動することを目的とする指数との間の連動の両方を監視する役割を果たします。
この仮想の例における投資家は、ミスプライシングを体系的に最小化するアービトラージャーや、指数と商品設計の両方において透明性と規律を高めるように行動するその他の市場参加者や評論家など、同じ指数に連動する大規模で流動性の高い取引エコシステムに実質的に依存しています。単一の商品における取引量の増加はこうした流れの一部ですが、包括的な観点からすると、同一または同様の指数に連動する関連商品のネットワーク全体(それが存在する場合)にわたる取引量を評価する必要があります。