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COP26 は成果を上げたか?

炭素価格の上昇による影響:ユーロ圏のS&P PACT指数はテストに耐えられるか?

米上院によるインフラ投資法案の可決と、暗号通貨への影響

ベンチマークが重要な理由

不動産投資:定量的なルール・ベースの指数を使用するグローバル分散投資

COP26 は成果を上げたか?

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Jaspreet Duhra

Managing Director, Global Head of Sustainability Indices

S&P Dow Jones Indices

この記事は、Risk.net に掲載された記事を転載したものです。

2021 年の国連気候変動枠組条約第 26 回締約国会議(COP26)は 11 月に閉幕しました。約 200 ヵ国の代表が一堂に会したこの会議では、地球温暖化を 1.5℃以内に抑える道筋を定めることが重要なテーマでしたが、各国から十分な削減目標を引き出すことができたのでしょうか?

COP26 では「グラスゴー気候協定」が採択され、地球の平均気温上昇を 1.5℃以内に抑える努力を追求することが明記されました。合意事項には、2030 年の排出量削減目標を強化することや、これらの目標を毎年見直すこと、石炭火力発電を段階的に削減することなどが盛り込まれました。

しかし、COP26 終了後には、依然として多くの課題が残されていることが明らかになりました。COP26 のアロク・シャーマ議長は次のように述べました:「これまでの気候変動に対する取り組みや行動では、パリ協定で定め られた目標を達成するには不十分であり、我々はそのことを十分に承知しています。」

懸念される問題

一部の汚染物質排出国は、明確なコミットメントや優先順位を示すことができませんでした。例えば、中国は世界最大の二酸化炭素排出国であり、ロシアは世界第 5 位の二酸化炭素排出国ですが、両国の首脳は COP26 を欠席しました。ただし、中国は米国と共同宣言を発表し、2020 年代の気候変動対策を強化する方針を示しました。

過去に誓約が守られなかったこともありました。2009 年のコペンハーゲン会議では、2020 年までに年間 1,000 億ドルの気候変動対策資金を発展途上国に提供することが合意されましたが、この誓約は達成されませんでした。COP26 の最初の週に発表された誓約は大きなニュースとなりましたが、この誓約の実現性を問う声が相次ぎました。また、2050 年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを達成することが重要な焦点となりましたが、協議では各国の足並みの乱れが目立ちました。インドは 2070 年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを達成すると誓約しました。これは確かに重要な一歩と言えますが、2070 年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにしたとしても、1.5℃目標を達成することはできないと考えられます。

排出量実質ゼロ社会の実現に向けて

COP26 では、多くの誓約やコミットメントがなされ、経済規模の小さな国についても様々な合意が締結されました。主要国の著名政治家や重要な誓約が脚光を浴びた一方で、この会議は小さな国の訴えを聞くための重要なフォーラムでもあります。小さな国は温室効果ガスをほとんど排出していませんが、主要国と同様に、気候変動の悪影響に直面しています。

COP26 では、各国の代表団が一堂に会するとともに、幅広いコミュニティが気候変動に関するロビー活動を行いました。例えば、フェアトレード財団は、気候変動の被害を受けている農民の代表団が参加することを支持しました。地元の運動団体は政治家が気候変動に対応するように要求しました。

気候変動は人類が直面する大きな課題であり、COP26 などの国際会議が開催されたことで、この問題に対する関心がさらに高まっています。気候変動問題は現在、メディアでも大きく取り上げられているため、多くの人々の理解が深まっています。また、気候変動対策として様々なアイデアが支持を集めており、これらを行動に移していく必要があります。

多くの企業は、ESG を推進する責任を認識しており、気候変動に関するリスクと機会について理解を示すとともに、2050 年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを達成する決意を表明しています。COP26 の開催期間中、「グラスゴー・ファイナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ(GFANZ)」を通じて注目すべき発表があり、温室効果ガス排出量実質ゼロ社会の実現に向けて、500 社近い金融機関が温暖化対策にコミットしたことが明らかになりました(これらの金融機関の運用資産総額は合計 130 兆ドルを超えると言われている)。

当社の指数への影響

当社は気候ベンチマークのプロバイダーとして、全ての国連気候変動枠組条約締約国会議での動きや、投資家要件の変化を注視しています。アセットオーナーや資産運用会社は気候変動を考慮したポートフォリオを構築することに取り組んでおり、ネット・ゼロ準拠指数に対する関心が高まっています。

S&P PACT指数(S&P パリ協定準拠指数及び気候変動指数)は 1.5℃シナリオに適合するように銘柄が選択・加重されており、この指数では地域別指数も算出されています(直近では S&P 英国ネット・ゼロ 2050 パリ協定準拠ESG 指数が追加された)。

S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス(S&P DJI)は、指数のメソドロジーに関して透明性を提供することに努めており、S&P PACT 指数が持続可能性目標をどのように達成しているかについて定期的に情報開示を行っています。

COP26 が実際に成功したかどうかは時間が経たなければ分かりませんが、S&P DJI は 1.5℃シナリオに沿ったルー ルに基づいた指数を引き続き開発し、温室効果ガス排出量実質ゼロを目指している投資家を支援していく方針で す。

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炭素価格の上昇による影響:ユーロ圏のS&P PACT指数はテストに耐えられるか?

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Barbara Velado

Senior Analyst, Research & Design ESG Indices

S&P Dow Jones Indices

「人類への赤信号」。国連は、気候変動による人類への影響が差し迫っていることをこのように表現しました。人間の行動が引き起こした地球温暖化により、世界の平均気温は産業革命前と比べてすでに1.1℃上昇しており、2100年までには上昇幅が2.7℃以上に達する可能性があります。パリ協定の目標に従い、地球温暖化を1.5℃以内に抑えるためには、脱炭素化を推進する必要があります。S&P PACTTM指数(S&P パリ協定準拠指数及び気候変動指数)は、パリ協定に準拠し、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標に適合することを目指しています。

カーボンプライシングの導入を受け、企業は温室効果ガス排出量削減に取り組んでおり、低炭素社会への移行が加速しています。欧州連合域内排出量取引制度EUETSにおいて炭素価格の上昇が続いており、炭素価格は1年間で126.58%も急騰しました。

地球温暖化を1.5℃以内に抑えるためには、今後数十年にわたり炭素価格が大幅に上昇する必要があると思われます(これは、目標を2℃以上とした場合よりも大きな上昇幅である)。ただし、こうした価格上昇をめぐる不透明感は非常に大きいと言えます。当然ながら、企業は炭素排出量の追加コストを吸収するか、あるいは追加コストを消費者に転嫁する必要があるため(いわゆる、炭素価格プレミアム)、炭素価格の上昇は金融リスクにつながる可能性があります。

炭素価格が上昇した際に、ユーロ圏のS&P PACT指数が財務的な頑健性を示すか、またはポートフォリオのアーニング・アット・リスクがベンチマークを下回るかどうかについて、当社はS&P Global Trucostのカーボン・アーニング・アット・リスクのデータセットを使用して検証します。Trucostは、以下の3つの炭素価格経路を策定しました。

  1. 国が決定する貢献(NDC)を反映した低い炭素価格
  2. 2℃目標を前提とする中程度の炭素価格(ただし、短期的には対応が遅れる)
  3. パリ協定の2℃目標に合致した高い炭素価格

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米上院によるインフラ投資法案の可決と、暗号通貨への影響

米上院は 2021 年 8 月 10 日、超党派によるインフラ投資法案を賛成多数で可決しました。この法案はバイデン大統領の目玉政策の一つであり、総額 1 兆ドルを上回る規模となっています。これによるデジタル資産市場への影響は、金額的には小さいものの、暗号通貨の税務上の取り扱いで大きな影響が出る可能性があります。この法案が施行された場合、デジタル資産市場の参加者に対する税率の引き上げや新税の創設はありませんが、新たな申告義務が発生するため、デジタル資産投資家から徴収される税金は 280 億ドル増加すると推定されています。

一般に、米内国歳入法第 6045 条の規定によると、「ブローカー」の定義に該当する者は、顧客の名称、社会保障番号、及びその他の関連情報を記載したフォーム 1099 を米内国歳入庁(IRS)に提出し、取引ごとの総収益を申告する義務があります。今回のインフラ投資法案の仮想通貨条項では、この「ブローカー」の定義が拡大されており、「デジタル資産の移転を実現するサービスを提供する者」の定義に「分散型取引所(DEX)やピアツーピア(P2P)マーケットプレイス」も含まれることになります。

こうした定義の拡大により、分散型金融(DeFi)の取引所をはじめとするデジタル資産市場の参加者に大きな影響が及び、業界全体の負担が増す可能性があります。

分散型金融(DeFi)の多くの参加者は、デジタル資産の送信者や受信者を特定できないため、米内国歳入法第6045 条の申告義務を果たすことができない可能性があります。可決された法案の文言によると、幅広い市場参加者がブローカーの定義に含まれることになり、マイナー(採掘者)、デジタル資産を預かるサービス、ノード運営者、バリデーター(承認者)、スマート・コントラクト、オープンソース・デベロッパー、ハードウェア・ウォレット/ソフトウェア・ウォレットの開発者、DAO トークンの保有者などがブローカーとして扱われる可能性があります。また、以下のような場合にも個人投資家に影響が及ぶことになります:

  •  他の個人との間で暗号通貨を売買する場合
  • 暗号資産取引所(またはそれに相当する取引所)を通じて暗号資産を取引することは、単に 2 つの転送が同時に起こることであり、多くの場合ではブローカーまたはディーラーがテクノロジーを使用して取引を仲介する。また、分散型取引所(DEX)では、金融機関や事業体が一切介在せず、テクノロジーのみによって個人間の取引が成立する場合がある。

したがって、影響を受ける個人は金融機関レベルで申告を行うことが義務付けられます。従来の金融取引では、誰がブローカー(例えば、ファンド・マネージャーなどの金融機関)で、誰が顧客(例えば、ファンド・マネージャーのファンドに投資する投資家)なのかが明確であったため、金融機関は容易に取引を申告することができました。多くの上院議員がこの問題を認識しており、ワイデン上院議員、トゥーミー上院議員、及びルミス上院議員などは法案の文言の修正案を提出しました。具体的には、マイナー(採掘者)やハードウェア・ウォレット/ソフトウェア・ウォレットの提供者などをブローカーの定義から除外し、実際に申告することができる当事者(例えば、暗号資産取引所)のみに申告義務を課すことが提案されました。しかし、申告義務の対象者の範囲を狭めた場合、予想税収が約 51 億 7,000 億ドル減少する可能性があることが判明しました。ポートマン上院議員はツイッターの投稿で、「イノベーションを阻害せず、ソフトウェア開発者、マイナー(採掘者)、またはその他の非ブローカーに対して申告義務を課さないように、暗号資産取引に関する米内国歳入庁(IRS)への申告ルールを修正する」ことについて合意に至ったと述べましたが、法案の文言は原案のままとなりました。
ブローカーの定義を狭めることなしに法案が成立した場合、米内国歳入庁(IRS)への申告義務の適用範囲が非常に幅広くなります。一方、米国外の企業が所有・管理するブローカーなどは米国の申告義務の適用を受けないため、結果として人材やテクノロジーが米国外に流出してしまう恐れがあります。これにより、デジタル資産業界が米国にもたらす経済的恩恵が少なくなる可能性があります。ほとんどの暗号通貨は国境を超えて取引されるため、人材やテクノロジーが米国外に流出したとしても、暗号通貨指数全体には影響しない可能性もありますが、米国の暗号資産プロジェクトと米国以外の暗号資産プロジェクトの成長に影響が出る可能性があります。米財務省と米内国歳入庁(IRS)は、デジタル資産の税務上の取り扱いに関して正式なガイダンスをまだ示していないため、新たな申告ルールが施行されるまでに、少なくとも 18~24 ヵ月の準備期間が設けられると予想されます。現時点で、インフラ投資法案は 2023 年に施行される見通しとなっています。
S&P 暗号通貨指数は、ビットコインやイーサリアムを含む複数の暗号通貨のパフォーマンスに連動しており、日々進化するユニークな暗号資産市場に透明性をもたらすように設計されています。S&P DJI のデジタル資産ソリューションについて詳しい情報をお求めの方は、こちらを参照ください。

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第三者の執筆者の見解及び意見は、その執筆者自身のものであり、必ずしも S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
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ベンチマークが重要な理由

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Craig Lazzara

Managing Director, Index Investment Strategy

S&P Dow Jones Indices

私は先日、パッシブ運用をテーマとするオンラインセミナーに参加する機会がありました。視聴者の中のポートフォリオ・マネージャーは次のような興味深い質問をしました。「X%のリターンを獲得することが目標であれば、指数のパフォーマンスは関係ないのではないですか?言い換えれば、特定の絶対リターンを獲得したいのであれば、指数に対する相対リターンを気にする必要はないのではないですか?」

これは良い質問であり、多くの良い質問に対する答えと同様に、この質問に対する答えも場合によって異なります。つまり、付随する質問によって答えが違ってきます。X%のリターンを獲得することが投資家の目標であれば、どのような手段でその目標を追求しようとするかがポイントとなります。

投資の世界には多くの資産クラスがあります。金の延べ棒やビットコイン、または優れた芸術家の絵画などを購入する投資家もいます。しかし、ほとんどの場合、投資家や運用受託会社は証券に投資することにより絶対リターンを追求します。証券市場では、少なくとも2つの理由で指数のリターンが重要となります。

1つ目として、適切に構築されたベンチマークでは、投資家の機会集合を定義します。S&P 500®のような時価総額加重指数は、株式市場の価値に連動するように設計されています。株式市場全体の価値が変化すれば、指数のリターンにも直接的な影響が及びます

年間8%のリターンを獲得することが投資家の目標であると仮定し、投資している市場が20%下落した場合、投資家がその目標を達成することはほぼ不可能です。一方、市場指数が20%上昇した場合、8%のリターンで投資家が満足することはほぼあり得ません。絶対リターンは願望であり、相対リターンは実用的なものであると言えます。

2つ目として、市場指数に対するポートフォリオの相対リターンは、運用マネージャーのスキルを表します。お客様は、パッシブ運用によって市場平均並みのパフォーマンスを確保するか、またはアクティブ運用によって市場平均をアウトパフォームすることを目指すかを選択することができます。アクティブ運用マネージャーにとっての成功の尺度が、ベンチマークをアウトパフォームすることであれば、過去の実績を見る限り、ほとんどの期間において、大抵のアクティブ運用マネージャーはベンチマークをアウトパフォームできていません。実際に、長期の投資期間では、指数運用の優位性が非常に大きくなっています

したがって、パッシブ運用によって市場平均並みのパフォーマンスを目指す投資家は、市場平均をアウトパフォームすることを目指す投資家よりも良い成果を得る場合が多いと言えます。相対リターンを諦め、ベンチマークに対する超過収益を目指さないことが、絶対パフォーマンスを向上させる重要なカギとなるかもしれません。

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不動産投資:定量的なルール・ベースの指数を使用するグローバル分散投資

質問…

米国株式、国際株式、長期国債、米国財務省短期証券、及び不動産投資信託(REIT)の5つの主要資産クラス中で、過去20年間において複利リターンが最も高かったのはどれでしょうか?株式でしょうか?利回りがゼロ近くまで低下したため、答えは債券でしょうか?

いいえ。REITが最も高いリターンを達成しました。過去20年間にわたる各資産クラスのリターンを比較すると、REITが最も高いリターンとなり、年間複利リターンは10.4%となりました。伝統的な投資ポートフォリオにREITを加えることにより、過去のリターンを上回る収益を獲得できる可能性があります。

さらに、株式や債券で構成されるポートフォリオに不動産(例えば、農地、アパートの賃貸、住宅建築業者、または商業用不動産など)を組み入れることで、ポートフォリオの分散を図ることができます。「REIT」について考える場合、多くの投資家は「インカム収入」を思い浮かべます。そして、どのREITの利回りが最も高いかに注目し、そこで分析をやめてしまいます。しかし、これは非常に視野の狭い手法であると言えます。

以下では、REITを組み入れたポートフォリオを構築する上で最適と考えられる方法について考察します。

グローバルな分散投資

分散投資を行う上で投資家が犯しやすい失敗の1つは、自国の資産に投資先を集中させてしまうことです。例えば、世界の株式市場を時価総額で見た場合、米国の株式市場は世界全体の合計時価総額の半分強に過ぎません。しかし、米国のほとんどの投資家は約80%以上の資金を米国株式に配分しています。

もちろん、このホームカントリー・バイアスは米国の投資家に限ったことではありません。世界中の投資家がホームカントリー・バイアスに陥っています。特に小さな国の市場は世界の合計時価総額に占める割合も小さいため、ホームカントリー・バイアスが大きな問題となり得ます。REITの場合でも、米国のREITだけを投資先として検討することは適切ではありません。しかし、バランスの取れた最適なREITポートフォリオを構築する上で、グローバルな分散投資を検討することは最初のステップに過ぎません。理論上は、その他にも重要なステップがあります。

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