中国とヨーロッパのEV展開 世界シェアや移行ペースの観点で紹介@weight>
中国のEVトレンド 無料ダウンロード
本記事の内容に加えて、より詳しく中国のEV市場のトレンドについて解説しています。
「中国とヨーロッパのEV展開について知りたい」「自動車業界のEVシェアはどのくらいなのだろう」と疑問に思う方は多いでしょう。
自動車の電動化が叫ばれ始めてからある程度の時間が経過しましたが、EVへの移行はあまり進んでいないのが現状です。
本記事では、自動車業界における世界のEVシェア、特に中国とヨーロッパに焦点を当てて解説します。
また、中国とヨーロッパでEVの普及率が異なる要因も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
自動車業界における世界のEVシェアの現状と予測
この章では、自動車業界におけるEV(Elctric Veicle)のシェアについて解説します。
世界のBEVの普及ペースは鈍化している
現在のところ、世界のBEV(Battery Electric Vehicle, 電気自動車)普及率は鈍化しています。
電気自動車の主要市場である、中国、西ヨーロッパ、米国のいずれにおいてもBEVのシェア拡大ペースが鈍化しているのが現状です(上図参照)。
これは、ハイブリッド車やICE(Internal Combustion Engine)車への規制緩和などが主な要因として挙げられます。
弊社の基本シナリオ(出典:S&P Global Mobility)では、2030年までに世界の軽量自動車販売の40%がバッテリー電気自動車と軽商用バンになると推測しています。
BEVの中期的な普及予測
ここでは、BEVの中期的な普及予測について紹介します。
上図のように、電気自動車の中期的な普及ペースの予測を下方修正している一方で、2030年についてはより安定した見通しを維持すると考えています。
しかし、BEVの普及は消費者の需要の加速なしには実現しません。
需要の見込みが低水準で維持し続ければ、政府がハイブリッド車やICE車に対する規制を軟化させ、BEV普及の見通しがさらに悪化するリスクが高まります。
したがって、BEVのシェア拡大には消費者の需要を喚起する必要があるといえるでしょう。
中国とヨーロッパからみた世界のEVシェア
この章では、中国とヨーロッパからみた世界のEVシェアについて解説します。
中国はEVの普及でリードしている
中国ではEVの普及率が高く、欧米をリードしています。
中国のBEVの普及率は2024年第1四半期で25%であり、世界の中でも高水準です。中国でのEV普及率が高くなっている主な要因を下記に示します。
- 製造コストの低さ
- 政府の大幅な支援
- リーズナブルでラインナップも多い
中国でのBEVの平均的なメーカー希望小売価格(MSRP, Manufacture's Suggested Retail Price)は、非BEV車を7%も下回っています。
この値は、中国市場特有の電気自動車「マイクロカー」セグメントの影響で、実際よりも低い値となっているのは確かです。
しかしマイクロカーを無視したとしても、中国におけるBEVの平均価格は非BEVと比較してほぼ同等です。
また、競争環境が厳しい中国では、自動車製造が非常に細分化されているとはいえ、メーカーが地方政府の例外的な支援を受けている点も見逃せません。
これにより、現時点での自動車業界の財務的な苦境は低水準に留まっています。
まとめると、世界における中国のEVシェア拡大は、低コストと政府の後押しが大きな要素といえます。
S&P Global Mobility イベントカレンダー
ソリューションウェビナーシリーズ、有識者イベントなど、様々なイベントの詳細はこちらからご覧いただけます。
SPGlobal.com/AutoCalendar_Japan
ヨーロッパや米国での低価格EV導入ペースは遅い
ヨーロッパや米国では、EVの普及ペースが遅いといわれています。欧米でEVの購入が躊躇われる主な要因は、下記のとおりです。
- コストが高い
- 航続距離が短い
- 充電インフラの整備が不十分
- 技術が陳腐化するリスクがある
数ある要因のなかでも、高コストは非常に大きな問題です。現時点では、EVと非BEVの平均MSRPは、西欧で24%、米国で37%というのが現状です。
政府が補助金を削減した市場では、さらに摩擦が拡大しています。
各メーカーは低価格車の開発で対応していますが、ヨーロッパについて弊社は下記のように予測しています。
【ヨーロッパ、米国におけるEV普及の予測】
- エントリー価格の BEV(例:VW ID2とルノー「トゥインゴ」)が 2025〜2026年頃に20,000〜25,000ユーロで登場
- しかし、これらはポートフォリオのごく一部に限られる
BEVを真に手頃な価格にするためには、製品コストを大幅に削減する必要があります。
とはいえ、低価格EVを市場投入すると下位セグメントの成長が促進される可能性があるため、モデル・ミックス悪化への対応も検討しなければなりません。
中国とヨーロッパでEVシェアが異なる要因
この章では、中国とヨーロッパでEVシェアが異なる要因について解説します。
最適なバッテリーケミストリーの議論が未解決
最適なバッテリーに関する議論は、EVシェア拡大の差を生み出します。
現在、EV用バッテリーには、「ニッケル・マンガン・コバルト(NMC)」や「リン酸リチウムイオン(LFP)」が利用されています。
上図にまとめられているとおり、NMCは比較的高価であるものの高性能です。
一方、LFPは安価(NMCより25%安い)ものの寒冷環境に弱い特徴を持ちます。
NMCはEV用バッテリーの主流技術として多くのEVに利用されており、LFPはエントリーレベルのBEV (特に中国)や PHEV(Plug-in Hybrid Elctric Vehicle)などで採用されています。
実際、EVの普及が進む中国企業BYDでは、LFPバッテリーの使用率が圧倒的です。
NMCとLFPのどちらが最適なバッテリーであるかは依然として議論が続いていますが、議論の早期終結はBEV普及ペースの促進に繋がる可能性があります。
バッテリーパックの価格格差
電気自動車の価格のうちバッテリーパックはおよそ40%を占めることから、バッテリーパックの価格も重要です。
とくにBEVへの移行促進には、バッテリーパックのコスト削減が重要課題といえます。
しかし、中国、ヨーロッパ、米国におけるバッテリーパックの価格格差はスケールアップ、
エネルギー、人件費などの要因から、今後も改善されない可能性があります。
しかし米国では、IRAの下で利用可能な生産税額控除 (45ドル/kWh)がコスト差を埋める助けになるかもしれません。
充電インフラの整備
充電インフラの整備度合いも、EVシェアに大きく影響します。
ヨーロッパのBEV主要市場であるドイツ、イギリス、フランスにおいて、稼働中のBEV100台当たりの公共充電器の平均は約10台です。
一方、BEVの普及率が最も低い国スペインとイタリアでは公共充電網の密度が高まっており、公共充電スタンドはそれぞれ24カ所と23カ所、オランダ35カ所とベルギーの32カ所と続きます。
※いずれもBEV100台あたりの平均値
なお、EVの普及が進む中国において、利用できる公共充電施設は270万カ所です(稼働中の電気自動車は1,550 万台)。
また、米国エネルギー省によると、米国のEV人口に対する公共の充電ステーションの数は 61,000 カ所以上で、稼働している車両の約1%を占めているとされています。
EVにとって充電インフラは必須であることから、今後のシェアには公共充電器の設置数が大きく関わるといえるでしょう。
EVシェア拡大には充電インフラの整備がネック
自動車業界におけるEVのシェア拡大には、充電インフラの整備が必須です。
弊社のS&P Global Mobility Global Consumer Insightsの調査では、ユーザの電気自動車に関する懸念は、下記であることがわかりました。
- 充電にかかる時間(46%)
- 充電ステーションの利用可能性(44%)
電気自動車などに積極的に関わるアーリーアダプター層は自宅で充電するかもしれませんが、多くの所有者層は公共充電に頼ると考えられます。
したがってEVの普及率を飛躍的に高めるためには、充電インフラの整備を優先させる必要があります。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの分析によると、欧州連合(EU)が ICE車からEVへの移行を成功させるためには、2030年までに少なくとも340万カ所の公共充電ポイントが必要であるとしています。
しかし、2023年末時点でEUの公共充電施設は約63万カ所であり、その13%が直流充電器、87%が交流充電器であるのが現状です (出典:欧州代替燃料観測所)。
まとめ:EVシェア拡大の鍵は、コスト抑制と充電インフラの整備
自動車業界において世界のEVが占める割合は高いとはいえず、BEVの主要市場である中国やヨーロッパ、米国においてEVのシェア拡大ペースが低下しているのが現状です。
しかし、中国ではEVの普及率が最も高く、BEVの価格はすでに内燃機関 (ICE)車とほとんど変わりません。
このリーズナブルさを背景に、EVの普及ペースでは欧米を牽引しています。
一方、ヨーロッパではコスト面の課題からEVの普及速度は低いままです。これには、ハイブリッド車やICE車の規制緩和などの政府の対応も関係しています。
大前提として、EVシェア拡大には消費者の需要の高まりが必ず必要です。
そのうえで、バッテリーの価格と充電インフラの整備度合いが、消費者の購買行動に大きな影響を与えるといえるでしょう。
刻一刻と変化する状況の中で自動車業界がどのように対応していくのか、引き続き動向を注視していく必要があります。