
電気自動車のアフターサービスと修理、メンテナンス分野とは?BEV普及による変化も解説
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本記事の内容に加えて、各メーカーのアフター戦略についても解説しています。
近年、電気自動車の普及が進み、アフターマーケット戦略が注目されています。S&Pグローバルモビリティのレポートによると、2034年までに内燃車の台数は減少し、特にBEVの保有台数が急増する見通しです。BEVは2034年に電動車全体の半数を超えると予測され、これに伴い点検や整備の需要が拡大すると考えられています。
本記事では、本レポートをもとに、電気自動車のアフターサービスや修理、メンテナンス分野について、BEV普及による変化も踏まえながら解説します。
電気自動車の主なサービス・修理・メンテナンス分野
上図は、アフターマーケットにおける電気自動車の種類(「FCEV」「BEV」「PHEV・HEV」「ICE stat/stop・MHEV」)ごとに主要なサービス・修理・メンテナンス分野をまとめたものです。
ここでは電気自動車の各ジャンルにおいて、どの部品分野に点検整備需要が発生するかが視覚的に示されています。以降の章では、電気自動車におけるそれぞれの動力源ごとに、主なサービス・修理・メンテナンス分野について詳しく解説します。
内燃系自動車、PHEV・HEVの主なサービス・修理・メンテナンス分野
上図は、既存の内燃機関系自動車(「ICE・stat/stop」「MHEV」)における主なサービス・修理・メンテナンス分野を示したものです。点線で囲われた部分に注目してください。
当然、電気自動車特有の部品分野(High voltage(more than 200V)assembles)は対象外とされています。また、燃料電池車特有の内容(Fuel-cell assembles)も対象外です。
次に、「PHEV」「HEV」における主なサービス・修理・メンテナンス分野を示したものです。既存の内燃機関系自動車との違いとしては、「PHEV」「HEV」では高電圧のバッテリー周りの部品分野が対象になっている点が挙げられます。
BEV、FCEVの主なサービス・修理・メンテナンス分野
次に、「BEV」における主なサービス・修理・メンテナンス分野を示したものを取り上げます。大きな特徴として、内燃系部品分野(ICE assembles)がアフターマーケットの対象から外れている点が挙げられます。
上図は、「FCEV」における主なサービス・修理・メンテナンス分野を示したものです。
BEVと同様に、内燃系部品分野(ICE assembles)がアフターマーケットの対象から外れています。ただし、燃料電池車特有の分野(Fuel-cell assembles)は対象に含まれるのが特徴です。
ここまでに見てきたとおり、内燃系部品分野(ICE assembles)は、内燃系自動車およびPHEV・HEVでのみアフターマーケットの対象に含まれます。
しかし、内燃系部品分野のアフターマーケットがすぐになくなるわけではありません。2050年時点でも内燃車の新車販売台数は、ボリューム自体は減るもののゼロにはならないと予測されています。つまり、2050年以降も内燃車のアフターマーケット市場は存在しますが、現状のものとは大きく特徴が変わると見られています。
その一方、今後の内燃車の市場縮小に伴い、電気自動車の市場は拡大していく見通しです。アフターマーケットに関わる業者としては、こうした傾向に対応していく力が求められるようになるでしょう。
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BEVがもたらす重量に関する変化
上図は、自動車エンジンの最下層に位置する部品(Unsprung assemblies)について、BEVがもたらす変化をまとめたものです。
まず、電気自動車が増加すると、回生ブレーキを使用する頻度が高まり、機械式ブレーキの使用頻度が低下します。機械式ブレーキの使用頻度の低下によって、サビがつきやすくなる可能性が指摘されています。そのため、電気自動車については、サビがつきにくいメッキ仕様のブレーキの利用が好まれている状況です。
また、BEVに搭載されるバッテリーパックの重量(300kg〜600kg)を踏まえて、車両重量の増加傾向が見られます。それだけでなく、トルクモーターの高性能化や低騒音、 グリップの高性能化などの要求によって電気自動車向けのタイヤに求められる条件が厳しくなります。これにより、タイヤのローテーションやアライメントなどの頻度を増やしていく必要があるでしょう。そして厳しい条件を満たすために、世界のメーカーにおけるBEV専用交換用タイヤは、従来品のタイヤに比べて1本あたり50%〜70%金額が上昇すると予測されています。
さらに、車両のウィッシュボーン、トレーリングアーム、ストラット、ブッシングとベアリングなどに対しても、より高い堅牢性が求められるようになります。この分野については、すでに既存のティア1サプライヤーやアフターマーケットの専業メーカーによるソリューションがいくつか投入されており、今後も需要が拡大していく分野であると見込まれています。
車両重量の増加が施設に与える影響(Tooling at facilities)については、脱着時に専用のリフトまたはジャッキなどが必要になってくる点に留意しましょう。
実際にBEV専用の設備については、アフターマーケット業者向けに供給が始まっている状況です。国によっては一部のアフターマーケット企業において、あらゆる場所で商用車の点検・整備を行うサービスを提供している会社も出てきています。
BEV推進システムに関するサービスと修理について
上図は、BEVの駆動システムに関するサービスや修理についてまとめたものです。
現在BEVに搭載されている駆動用モーターは密閉型ユニットとして構築されており、「車両の状態を常にベストな状態で維持していきたい」というケースを除いて、特別なサービスやメンテナンスはほとんど必要ないとされています。
車両の寿命と同程度の耐久性が保証されており、場合によっては車両の寿命を上回ることもあります。
BEVバッテリーのサービスと修理について
上図は、BEVのバッテリーに関するサービスや修理について示したものです。
バッテリーセル全体で不具合が起こるケースはそれほどなく、単独もしくは複数のセル・モジュールの不調によって起こることが多いです。
バッテリーの不具合の箇所を突き止めて対応するためには、サービスセンターによる診断後、OEMによるアフターセールスもしくは独立系のアフターマーケットで対応していくことになります。このときの選択は消費者に委ねられることになりますが、バッテリー保証期間の内外や交換費用などが考慮されます。
アフターセールスにおけるバッテリーパック全体の交換には、非常に多くの金額がかかります。一方、独立系アフターマーケットでの交換の場合には、対応力のある業者を選定しなければなりません。なお、費用面においてアフターマーケットによる修理が困難な場合、OEMの中古バッテリーパックを利用して、バッテリー全体を交換するという選択肢もあります。
実際、バッテリーセルやモジュール単位での交換・修理については、ハイブリッド車に対して対応を行っている会社があります。例えば、カリフォルニア州の企業「Electron Hybrid Solutions」では、フルハイブリッド車向けの新品あるいは再生した高電圧バッテリーの供給や、バッテリーのリビルドキットの提供を行っています。
「Electron Hybrid Solutions」の提供するリビルドキットの場合、新車時の95%程度までの充電が可能であるとされています。また、再生バッテリーについては1年間・1万5,000マイル、リビルドキットについても3年間の4万5,000マイルの保証が付けられています。
まとめ:アフターサービス事業の機会拡大により対応力強化は必須
電気自動車の保有台数増加により、アフターマーケットビジネスの機会自体も拡大していくものと見られます。ただし、その傾向の中で、特にバッテリー保証期間外のアフターマーケットビジネスに対する要求条件が高まるため、その対応が求められるでしょう。
また、アフターセールス、独立系アフターマーケットそれぞれが保有している情報に違いがあることを踏まえ、何らかの形で協力体制を構築し、消費者がどのような選択を行ったとしても同程度の修理・点検・整備が可能という状況を作っていく必要があります。
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