世界中の生産、雇用、投資、貿易、研究開発の大部分は、多国籍企業(MNE)により占められています。市場を独占しているという見方がある一方、先進的な研究開発を行い、生産にイノベーションを起こし、世界中に経済的利益を広げているという、現代資本主義の縮図であるという見方もあります[1] どのような見解であれ、各国の政府としては、多国籍企業が経済活動を行っている国で課税所得が適切に申告されるよう徹底する必要があります。OECD移転価格ガイドライン(以下「ガイドライン」)は、関連企業間のクロスボーダー取引の評価に関する国際的コンセンサスである、独立企業間原則(アームズレングス原則)の適用に関する指針を示しています。これは基本的に、関連する2つの企業について、競争市場で交渉した場合と同じ移転価格を設定することを要求しています。市場が変化しボラティリティが高まる中、多国籍企業にとって税務リスクを最小化するために、移転価格のワークフローを最適化し転換することが、さらに重要となっています。
ある大手グローバル会計事務所の税務・移転価格チーム(以下「プライシングチーム」)は、子会社に融資する際に適用する貸出金利について、クライアントにアドバイスしています。一方でクライアントは、子会社に割り当てたリスクレベルと、オープン市場で資金調達する場合のリスクレベル示すことで、この金利の妥当性を税務当局に示す必要があります。会計事務所の規模が大きく、業務量が多いことから、経営幹部はワークフローを自動化・効率化するツールをプライシングチームに導入したいと考えました。
課題
プライシングチームのメンバーは、移転価格評価のために複数の外部・内部のリソースを利用していましたが、これは非効率的で、アドバイス内容を決定するのに長い時間がかかっていました。メンバーは、以下を実現する統合・自動化されたソリューションを求めていました。
- 子会社のリスクレベルを評価するための、包括的な(かつ、透明で合理的な)方法を備えている
- リスク評価に加え、債券の価格を算出するエンドツーエンドの統合されたサービスである
- OECDガイドラインの遵守している
- 新興国市場を含む、世界中の複数の市場に適用できる
移転価格の重要性と税務当局の厳しい審査に対処する必要性を踏まえると、高い認知度と評価のある組織と協力することも不可欠でした。チームはS&Pグローバル・マーケット・インテリジェンス(以下「マーケット・インテリジェンス」)に、この分野で実現できるソリューションについて詳細をたずねました。
ソリューション
マーケット・インテリジェンスのスペシャリストがCredit Risk Pricingを提案しましたこれは、S&P Capital IQ Proプラットフォーム上のCredit Analyticsモデルスイートの一部として提供されている、移転価格ワークフローをサポートする強力なソリューションです。このアプローチを活用することで、ユーザーは企業の信用力を簡単に評価し、独立したクレジットスコア[2] を算出し、OECDガイドラインに沿った方法で比較可能な利回りと妥当性のある金利を特定できます。
また、新興国市場の場合はこのソリューションにとどまらず、以下の2つのカスタマイズ機能の構築が不可欠であるとスペシャリストが提案しました。
- 新興国市場の実際のリスクレートを反映させる金利モデル Credit Risk Pricingの金利は、リスクフリーレートと、企業固有のクレジットリスクに起因する対応スプレッドで構成されています。標準的な企業のイールドカーブで使用される商品は、Credit Risk Pricingで価格設定されているニッチな商品を代表するものでない場合があります。このような場合、より代表的なサンプルを探すためにカスタム検索をコンパイルし、カスタムイールドカーブを作成します。
- 子会社や関連会社の負債レベルを評価する負債能力分析 スコアリングを行うことで、子会社/関連会社の資本金やレバレッジ比率を、同じリスクカテゴリに属する競合他社の比率値と合わせて表示できます。これにより、信用を低下させずに、どの程度の追加レバレッジを子会社がかけることが可能かを把握することができます。
これらの機能により、プライシングチームは以下を実現できます。
子会社の信用力を迅速に評価 |
数百万社の財務データへのアクセスや、自社の財務データをマーケット・インテリジェンスのモデルと組み合わせて使用するなど、発行体や債券のクレジットリスク評価を生成できます。 プレミアム財務情報(Premium Financials)Datasetは、複数の業界にわたる95,000社以上の活動中・活動停止中の企業を含む、世界中の15万社以上を対象とした5,000以上の財務、補足、業界固有のデータ項目に関する標準化されたデータを提供しています[3] 。データは多くの頻度で入手可能であり、会計期間のPoint-in-Time表示には、プレスリリース、当初の申告書類、修正申告が含まれます。 The Private Company Dataset の対象には、世界中の5,000万以上の非上場企業、財務諸表がある1,000万以上の企業、Crunchbaseのデータでサポートされている50万以上のアーリーステージ企業が含まれています。 Credit Analyticsの先進的なモデルに強力なデータを組み合わせにより、世界中の企業の潜在的リスク・エクスポージャーの的確なスコアリングと効率的なモニタリングを実現します。 |
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定性的インサイトを追加 |
調整とオーバーレイにより、定性的インサイト、親会社のサポート、マクロ経済ストレス、デフォルト時損失(LGD)要因を組み込んで、高度な分析が可能です。 |
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適切な金利の決定 |
このソリューションでは直感的な金利計算ができるほか、イールドカーブの構造やクレジットリスクの構成要素を掘り下げて、企業間ローン債務の最終値がどのように算出されたか理解することができます。 コーポレートイールドカーブは、4つの通貨(米ドル、ユーロ、ポンド、豪ドル)とすべてのGICSセクターに加え、広範な非金融企業セクター、7つの格付けカテゴリ(AAA-CCC)や投資適格・ハイイールドカテゴリとの集合体にわたり、クレジット期間構造の幅広く一貫したカバレッジ(1ヵ月~30年)を提供しています。データは、主要なバイサイド機関、クレジット取引デスク、取引報告施設(ベニュー)から直接入手したものです。これにより、各カーブの構築に使用された債券の構成銘柄や価格を掘り下げて閲覧するための、堅牢で透明性の高いデータを利用できます。 |
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企業を継続的にモニタリング |
クレジットリスクダッシュボードにより、企業のポートフォリオをモニタリングし、設定に応じたアラートを受信することができます。エクスポート機能により、レポートをPDF形式でダウンロード可能です。 |
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トレーニングおよび継続的なサポートの活用 |
世界各地にマーケット・インテリジェンスのスペシャリストがいるため、トレーニングセッションや、各種ソリューションのご案内、S&P Capital IQプラットフォームを利用方法など、継続的にサポートを提供しています。 |
クレジットリスク・プライシングの仕組み-4つのステップ
ステップ1:子会社または関連会社の財務データを入力
分析は、マーケット・インテリジェンスの企業財務の包括的なデータベースを活用し、クレジットスコアリングインターフェースで企業のクレジットスコアを自動生成することから始まります。また、ユーザーが独自の財務情報を手入力することも可能です。インターフェースのこのセクションでは、国や産業別のリスク要因も提供し、分析対象の国-業界の組み合わせも捕捉します。これらのインプットは、ユーザーが別の視点を採用する場合、調整することができます。
ステップ2:必要に応じて追加情報を入力します。
このステップでは、クレジットスコアにプラスにもマイナスにも影響する、以下の4つの分野を考慮しています。
定性的要因:ガイダンスは、定性的情報の追加を提案しています(入手可能な場合)。これにはたとえば、子会社が国/製品ライン/クライアント層ごとにどの程度分散されているか、マネジメントの質、支払い行動などが含まれます。
親会社・政府の支援(Parental & Government Support(PGS)):ガイダンスはPGSが借り手の信用力に影響を及ぼす可能性があることを認めており、この機能は親会社の財務健全性を考慮しています。
LGD: ガイダンスには、発行体格付けと債券格付け[4] の両方が入手可能な場合、債券格付けの方が取引の価格決定にとって適切であると記載されています。そのため、発行のLGDを確認し、それをクレジットスコアに織り込むことが必要になります。このソリューションはLossStatsアプローチを採用しており、企業の債務証券に関する損失と回収の見積もり値をグローバルに算出してくれます。これは、潜在的な担保設定や業界のリスクの高さ(LGD調整後のクレジットスコアに織り込まれる)を含む、優先順位構造(有担保、無担保、劣後ローンまたは実際の資本構造の特徴など)を考慮します。
マクロ経済的要因:ソリューションは、幅広い経済的要因に関する最新のデータを提供します。また、ストレステスト機能により、さまざまな状況を検討し、プラスまたはマイナスの環境がクレジットリスクに与える影響を確認することができます。
ステップ3:クリックすると、独立したクレジットスコアが生成されます。
財務数値とオプションの調整を入力すると、クリックするだけで、マーケット・インテリジェンスのCredit Analyticsモデルを使用して生成された、パーセント単位のデフォルト確率(PD)と関連するレターグレード(ABC評価)のクレジットスコアが表示されます。また、ステップ2で列挙した情報を入力すると、LGD調整後のクレジットスコアと、子会社や関連会社のマクロ経済影響値が表示されます。
ステップ4:イールドカーブを構築し、最終的な金利を求める。
最終的なクレジットスコアは、Comparable Uncontrolled Price(比較可能な非関連者間価格)(CUP)の決定に使用されます。これは、企業間ローンの文脈では最も適切なアプローチと考えられています。このベンチマーキングでは、S&P Capital IQのコーポレートボンドイールドカーブが自動的に使用されます。簡易化のため、最終的な金利もクレジットスコアと共に生成されるため、基礎となるイールドカーブの分析はオプションとなります。
主なメリット
プライシングチームのメンバーは、クレジット・プライシング・リスクソリューションのデモンストレーションや、サービスの柔軟性と透明性に感銘を受けました。今ではチームが組織全体で使用しており、以下を利用できるようになったことでメリットを得ています。
- OECDガイドラインに従った移転価格評価のための、統合された段階別のアプローチ。
- 税務当局の厳密な審査に対処できる、S&Pグローバル・レーティングの信用格付けとほぼ整合性のあるクレジットスコア。
- ベンチマーキング目的の特定のクライテリアで企業を迅速にスクリーニングできる、S&P Capital IQ Proプラットフォーム上の広範なデータと分析ツール。
- 表示される結果が現地市場の状況を確実に反映しているよう、必要に応じてカスタマイズモデルを開発するマーケット・インテリジェンスのスペシャリストの専門知識。
- 計算に用いたデータと手法を完全に理解するための、詳細なユーザーガイドと技術文書。
- 世界各地の拠点にわたってプライシングチームのニーズに応える、圧倒的に優れたトレーニングセッションと年中無休のサポート。
移転価格ソリューションの詳細はこちらをクリックしてご覧ください。
[1]「Multinational corporations in the 21st Century Economy(21世紀経済における多国籍企業)」、Brookings Institute、April 2021年4月www.brookings.edu/essay/multinational-corporations-in-the-21st-century/。
[2] S&Pグローバル・レーティングはS&P グローバル・マーケット・インテリジェンスによって算出されるクレジットスコアの作成に寄与も参加もしておりません。S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスPDクレジットモデルスコアは、小文字の表記によって、S&Pグローバル・レーティングにより発表される信用格付けと区別されています。
[3] 2022年12月現在のカバレッジ。
[4] 信用格付けは、この文脈においてはクレジットスコアと同じ意味を持ちます。