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透明性とインパクト
~ ESGの基本原則~

ダグラス・L・ピーターソン、S&Pグローバル 社長兼最高経営責任者(CEO)

March 21, 2022

Highlights

投資家にとって、意思決定を支援する最も厳密で信頼できるツールへのアクセスは不可欠である。

リスクのみを考慮したESGスコアはESG投資の基本原則を支持するものではない。

透明かつ厳格なESGスコアリングは、市場参加者が社会的な影響を評価し最適化するためにの不可欠なツールである。


公正かつネット・ゼロで、サステナブルな未来への世界経済の移行は、現代社会が直面する最も差し迫った課題の一つであり、私たちが担う大きな責任でもあります。

投資家や企業は、サステナビリティとビジネス・パフォーマンスを結びつける場合、これまで以上に、投資戦略をサポートするエビデンスに基づく洞察、質の高いデータ、高度な分析力を求めています。こうした中で、多くの企業や投資家がサステナビリティ・パフォーマンスを評価するツールとして重視しているのがESGスコアです。ESGスコアは、定められたESG基準に対する企業・団体のパフォーマンスにおけるプロバイダーの意見を示すヘッドラインの数値です。

高いエンゲージメント、一貫性があり比較可能で確実な情報開示、厳格な分析が、強固なESGスコアに不可欠な構成要素です。現段階では、企業のESG開示には一貫性がなく、包括的な見解を示すための解釈やモデル化が必須であるためにギャップが生じていますが、幸いなことに気候などのESG要素の開示を義務付ける国や地域は増加しており、開示の一貫性と普及への期待が寄せられています。S&Pグローバルは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)などの団体による企業のESG開示標準化における推進活動を歓迎しています。

ESG市場が成長と進化を遂げる中で、私はESGスコアにおける「透明性」と「インパクト」の2つの要素が、更なる成長、サステナブルな目標達成、市場の信頼を引き出すために不可欠であると思います。

1. 透明性は、洞察と分析を適切に解釈するための鍵です。企業のESGパフォーマンスをどう測定するかにおいて様々なアプローチが発展する中で、市場の混乱も生じています。なぜESGスコアの間で差が生じるのでしょうか?それは、異なるものを測定しようとするからです。

ESG基準に基づいた企業のパフォーマンス評価方法には、多岐に渡るアプローチやメソドロジーが存在します。例として、現代社会にとって最大の課題は気候変動であり、気候変動が企業評価の際に最も考慮されるべきという考えがある一方、ダイバーシティ、インクルージョン、もしくは生活賃金政策がネット・ゼロ戦略と同等の重要性を持つという見解もあるでしょう。意見の多様性は市場参加者による意思決定の際に重視されるため、こうした違いは歓迎されるべきかもしれません。しかし、どこにそしてなぜ意見の相違が出るのかを明確にするための透明性の確保が、市場の混乱を緩和し、理解を深めるために必要となります。

2. また、私は、企業のESGパフォーマンスを評価する際には、その企業が社会や環境に与えるインパクトを測定することが非常に重要だとも考えています。最近、2021年G7議長国である英国政府の下に発足したインパクト・タスクフォースのワークストリームにて議長を務めるという機会をいただきましたが、これは、公共財のために民間資本を大規模かつ誠実に動員するための進捗を支援するものです。インパクトとは、何を意味するのでしょうか?ESGにおいては、インパクトとは企業が社会に与える影響を指します。例えば、食品小売り店による持続可能な農業慣行への取り組みは良い影響を及ぼしますし、建設会社は方針を定めることで従業員の生活賃金支援に携わることができます。

私は、金融市場は善のための強い力になることができ、透明かつ厳格なESGスコアリングは市場参加者が社会的な影響を評価し最適化するための不可欠なツールであると確信しています。インパクト評価をESG評価における必須項目としない限り、ESGスコアを通じたサステナビリティ目標の達成支援は不可能です。インパクトと同様に将来のカーボンプライシングや物理的リスクなどのリスクを評価の一部として考慮することは賢明ですが、私は、リスクのみを考慮したESGスコアはESG投資の基本原則を支持するものではないと考えます。

透明性とインパクトはESGスコアに不可欠な要素であると掲げた上で、S&Pグローバルは、S&PグローバルESGスコアにおいてどのようなアプローチをしていますか?

私たちの透明性は高く 、S&PグローバルESGスコアのメソドロジーのみならず、質問の根拠、形式、背景情報、ウェイトについても当社ウェブサイト上で公開しています。S&P グローバルによるコーポレート・サステナビリティ評価 (CSA: Corporate Sustainability Assessment)を通して2,200社以上にも及ぶ企業がESG関連の詳細を提供するために当社と直接契約を結び、評価対象となる11,000社以上におけるESGと気候変動に関するインテリジェンスの相互チェック、検証、標準化を行っています。その際、リスクやセンチメントと同時にインパクトも評価し、リスクとインパクトの双方の指標に照らし合わせたパフォーマンスの検討と測定を実施しています。

このようにESGスコアのインパクトと透明性へ焦点を当てることが、なぜ世界全般にとって重要なのでしょうか?

気候変動に焦点を当ててみると、世界の大企業の3分の2が温暖化による物理的リスクが高い資産を少なくとも1つは抱えている反面、まだパリ協定の目標達成の目途は立っていません。現状を変えるには、世界的に行動を加速し、規模を拡大する必要があるのです。投資コミュニティは同ニーズに応えており、世界の運用資産の半分以上が2050年までにネット・ゼロを達成することを約束しています。このコミットメントは実現されなくてはなりません。投資家がコミットメント達成に向けて前進しようとする際に、意思決定を支援する最も厳密で信頼できるツールにアクセスすることが不可欠となります。

今こそ、ネット・ゼロとサステナブルな未来の確保に向けて行動を起こすべき時です。S&Pグローバルは、世界的な進歩の加速に向けて、透明性が高く、厳密で、適切なESGインテリジェンスの提供に全力を注いでいます。私たち全員が、自らの役割を確実に果たそうではありませんか。